バンチ・オブ・アマチュア
~わが愛しの映画クラブ~
解散の危機に瀕した英国最古のアマチュア映画クラブ。愛する映画クラブの存続をかけて奮闘するメンバーたちに思いがけない奇跡が起こる。 ブラッドフォード映画製作所はいかにも英国らしい労働者階級の人々が集まるアマチュア映画クラブだ。今や高齢化の波が押し寄せ、認知症や介護、伴侶との別れなど残酷な老いと向き合いながらも、彼らは映画という夢を追い続けている。一杯の紅茶を飲みながら映画への情熱を語り合う彼らの日々を静かに温かい眼差しで見つめたドキュメンタリー。過酷な現実、孤独深まるデジタル時代においても、空想の世界を描く心の豊かさや他者と分かち合う時間の大切さに気付かされる。
ブラッドフォード映画制作所のメンバーはプライドを持って自分たちのことを「アマチュア集団」と呼ぶ。決して卑下しているわけではない。1932年創立以来、自転車操業で実質ゼロ予算の一見するとくだらない自主映画を大真面目に制作してきた。キム・ホプキンス監督は、そんな彼らの映画にかける愛情を温かく親しみを込めた視点で見つめ、愉快で感動的な素晴らしいドキュメンタリー映画に収めた。今やメンバーの高齢化も進んでいるが、女性も男性も素人集団だからといって決して引けを取らず、映画制作に情熱を燃やす。仲間との協働、地域コミュニティとしての役割、育まれる友情など、思いがけない深い心のつながりが描き出される。
登場人物のひとり、コリンは80代の元大工。かつて映画クラブは入会を希望する人が列をなして数年間順番待ちするほど盛況だった時代があった。その時代を知る数少ないベテラン会員だ。近年ではすっかり入会希望者も減り、ブラッドフォード映画制作所も老境を迎えている。クラブの貯蓄は300ポンドしかなく、あちこちガタのきたクラブハウスの家賃は5年も滞納したままだ。それでも毎週月曜日の夜にはメンバーが集まり、お茶を飲んだり自主映画の傑作を一緒に見たりして過ごす。コリンは、認知症でケアホームにいる妻を見舞い、クラブハウスに毎週顔を出しては不法投棄されたゴミや壁の落書きの対処に悪戦苦闘する。
そして、同じく80代のハリーは映画『オクラホマ!』のリメイク撮影に挑むのだが…果たしてその結末やいかに。若手メンバーでは40代のフィルが登場する。彼はちょっと口が悪く、しばしば物議を醸す。『The Haunted Turnip(呪いのカブ)』や『Nice Jam(ナイス・ジャム)』などの自作の短編映画について、「ドラッグでハイになる話ではない」と主張している。また、障害のある兄の介護もしている。「短編映画で世界は変わらないけれど、撮り続けることが僕の存在理由だ」とフィルは言う。
監督キム・ホプキンスが語る『バンチ・オブ・アマチュア
この映画の舞台となったイングランド北部ブラッドフォードは、排他的でカメラを向けるとあからさまに眉をひそめるような土地柄だ。私はこの町で育ち、地域のルール、労働者階級の人々の感情、そして厳しい歴史背景を理解している。一昔前に産業で栄えた面影がいたる所に残ってはいるが、今やブラッドフォードは西欧の中でも最も貧しい都市の1つだ。この町の労働者階級の人々は、イデオロギー的に分裂した社会の犠牲者と言える。社会は彼らを無視し、最悪の場合は彼らに責任をなすりつけた。こんな社会では、風刺的な視点が大いに機能する。例えば、日常の悲しみや孤独を悪魔や死神の姿に擬人化して追い払うというように、笑いに昇華して困難を乗り越える一種の生存メカニズムだ。この映画に登場する人々は善良で正直ないわゆる“地の塩”であり、私はこの作品で困難な状況を生きる彼らの感情に寄り添いたいと思った。
まず、彼らのコミュニティに完全に入り込む必要があった。そこで、従来のヴェリテスタイルを採用することにした。この方法は手持ちのシネマカメラで撮影するため被写体と親密な関係が生まれやすく、ナレーションやその他のストーリーデバイスを使わずとも被写体の心情や物語を浮き彫りにする事ができる。また、一部のシーンには彼ら自身が撮影した映像も入れた。アマチュア映画クラブが所蔵する1930年代のアーカイブの映像、彼ら自身が撮影した映画からの抜粋など、さまざまな質感の歴史のひとコマも味わい深い趣向を加えている。
冗談をまじえて物事を斜めから見る遊び心のある編集にしたのは、そもそもなぜ人は映画を作るのかという答えのない疑問の探究へと観客をいざなうためだ。ごく平凡な男性のジョーが前衛アートを志向していることも愉快で興味深い。
『バンチ・オブ・アマチュア』の中心となるのは映画への愛情とその魅力だけでなく、一緒に映画を観るために人々が集う毎週のミーティングの様子だ。巨匠ウォルター・マーチは言う、「原始より言葉を発明した人間は暗闇の中で集まり、語られる物語に耳を傾けてきた。自分自身を確認しお互いを結びつけるための欠かせない営みだ。映画館はこの原始の集まりを再現している。皆で囲んだたき火がスクリーンに変わり物語を映し出すようになっただけだ。」また、社会的孤立や疎外感、経済的な不安、貧しさがどのようなものかを知った現代において、『バンチ・オブ・アマチュア』は年齢を越えて、人との結びつきやふれいあいを求める時代精神を描いた作品となった。
パンデミック以前は、高齢者の孤立を描くことは少し抽象的で利他的に思えていた。けれど、今では誰もが「孤立」をすぐに理解でき、手を差し伸べたいと考えるようになったと感じる。本作品には、孤独と向き合う高齢者たちが積極的に集団活動の輪を広げ、団結を生み出し、創意工夫と自己表現に喜びを感じながら美しい仲間関係をはぐくむ様子が描かれていて、まさに今の時代を生きる私たちの心に響く物語となっている。
― キム・ホプキンス、2022年