ダンベ – エレファントフードは最強の歯のため
ナイジェリアの伝統格闘技ダンベ、その内側に迫ったドキュメンタリー。ライバル同士の2人の格闘家が闘技場“ダンダリ”での対決に臨む姿を、臨場感あふれるカメラワークとカラング太鼓の音にのせてミュージシャンのユスフ・ムサが奏でる「語りの歌」で綴る。アフリカン・コミュニティの祝祭と闘争、信仰と神秘、美しさと勇猛さに惹きつけられる。
映画製作者より―
この映画『エレファントフードは最強の歯のため』(Elephant Food is For the Strongest Teeth)は、映画・音楽、そして格闘技をこよなく愛する仲間が結集して生まれた情熱的なプロジェクトだ。これまで映像で表現されることがほとんどなかったナイジェリアの伝統格闘技、ダンベ。その試合に臨む部族の英雄たちを通して、このスポーツが持つ特別な意味合い、興奮と精神性を生き生きと捉えた初めての短編ドキュメンタリー映画となっている。
当初から地元カノ市民の実際の声を前面に出したかったので、ダンベの格闘家、トレーナー、ミュージシャン、試合の興業主たちのコミュニティに密着して撮影をおこなった。そのため、この伝統格闘技に熱狂する人々の視点から、彼らのありのままの姿を描くことができた。アフリカの現実を語るうえでメディアが目を向けて来なかった部分に着目し、アフリカ精神を体現する格闘技にスポットライトを当てることで、国境の壁を越えた説得力のある映画作りを目指したのだ。
まず、ダンベという競技について情報を得ようとインターネットで検索を始めたところ、数人の協力者と出会うことができた。その中の一人、アブドゥルアジズはこの競技のファンであるだけでなく、作家でありジャーナリストでもあった。彼の存在が撮影に不可欠なことは明白だった。とても幸運なことに彼は喜んで我々に協力を申し出てくれた。
本映画の中心を担う人物「エボラ」。最も有名な格闘家である彼は、実のところアブドゥルアジズの友人だった。我々が思い描いていた登場人物についてアブドゥルアジズに相談すると、すぐにエボラを紹介してくれたのだ。
しかし、難しい問題もあった。2018年に自己資金で撮影を開始することになったが、その頃、ナイジェリア軍は再びボコ・ハラムへの攻撃を開始していた。ダンベが行われるナイジェリア北部は紛争区域の真っ只中にあり誘拐が横行する地域だった。安全上のリスクを検討しつつも、我々はできる限り安いフライトに飛び乗り、周囲の賢明なアドバイスに反して現地に向かった。
ディレクターの一人ウィル・マクベインは西アフリカの伝手を頼り、元BBCハウサのカメラマンで現在はエンジニアをしているダニエル・イスラエルに連絡をとった。イスラエルのおかげで、我々はカノ、アブジャ、カドゥナの町を行き来することが可能になったし、さらに彼はナイジェリア軍の退役少佐から毎日治安状況の連絡が入るように手配までしてくれた。
ダンベという格闘技は、よそ者に対してやや排他的な宗教的慣習と結びついている。つまり、物語の中心となるエボラの信頼を得るには時間がかかるであろうことが予想された。最終的に撮影を終えてみると、この映画の成功は、地元の協力者たちが我々の誠意と構想に多大な信頼を寄せてくれたことの証しだと感じている。試合前日のエボラが、アニミズムの司祭に導かれてヤギのツノでヘビの毒を吸うシーンなど、プライベートな精神儀礼の様子を撮影する機会にも恵まれた。
また、現地で売られていた過去半世紀にわたるダンベの様子を収めたDVDなど多くの記録資料にも恵まれ、映像のオープニングシーンをさらに印象的なものとしている。
ダンベの試合には欠かせない太鼓や歌のエネルギッシュな名人芸にも是非注目してもらいたい。イギリスに戻って映画のラフカットが完成した時点で、地元のミュージシャン、ユスフ・ムサと共同しオリジナルの楽曲を制作した。音楽は映画のナレーションとしても機能している。この映画は、我々が撮影したすべての人々との共同制作により生まれた、まさに現地に生きる人々の声が詰まった作品だと言える。使用した楽曲は、モハメッド・アブドゥのプロデュースでユスフ・ムサが歌っている。ムサは、“闘技場”で格闘家を讃え、実況を語るように、即興の歌詞で我々の期待に応えてくれた。
日常の仕事の合間をぬってレンタル機材で撮影を敢行したこの映画は、ロンドンに戻って1週間も経たないうちに映画制作会社Punderdons Gardensに取り上げらることとなった。それから4年が経った今、この映画で伝統格闘技ダンベの“美しさ”を世界と共有できることを嬉しく思う。